「本当に美味しいものに、文化の壁はない」
今でこそありがたいことに多くのお客様が来店してくださいますが、その道のりは決して平坦ではありませんでした。開業当初、私たちの店は典型的な”外国のラーメン店”でした。現地の方々の好みを意識するあまり、スープは薄く、麺は柔らかく、丼の温度まで抑えていました。結果、一時的な珍しさで賑わいを見せたものの、次第に客足は遠のいていったのです。
その頃、キッチンスタッフとの会話が、大きな転換点となりました。
「ヨーロッパの人はこうだろう、という思い込みを捨てよう。我々が心から美味しいと感じるものだけを提供していこう」
その時の会話は、忘れかけていた私たちの原点を呼び覚ましてくれました。『日本とベルギーをつなぐ架け橋となるラーメンレストランを目指す』。それは単なるスローガンではなく、本物の味を通じて文化の懸け橋となることだったはずです。
決意を新たに、私たちは全てを見直すことにしました。まず日本に一時帰国し、製麺技術の再研修に取り組み、オリジナルブレンドの小麦粉を何度も見直し、配合を変え、麺の寝かせ時間まで徹底的に調整しました。
スープに関しても、基本の手法は残しながらも、より深い旨味を追求。炊き時間から最後の仕上げまで、自信を持って提供できる味になるまで、幾度となく試作を重ねました。
「現地化」という考えを完全に捨て、代わりに「日本の味をそのまま届ける」という本来の理念に立ち返った私たちに、嬉しい変化が訪れました。
「今までに味わったことのない深い味わい」
「これが本物の日本のラーメンなんですね」
現地のお客様からそんな言葉をいただけるようになり、日本人のお客様からも「ホッとする味」「日本と変わらない」という評価をいただけるようになりました。
現在、来店されるお客様の約9割は現地の方々です。本物の味を追求したことにより、現地での評価も高めることができました。
食材に関しては、確かに全てを日本から取り寄せることは難しく、取り寄せることができるものでも選択肢は限られています。しかし、それは決して言い訳にはならないと考えています。現地の食材と真摯に向き合い、その特性を活かしながら、最終的に日本の味を実現する。その過程で必要となる工夫と努力こそが、私たちの誇りとなっています。
「海外だから」という言葉は、私たちの辞書にありません。誰が来ても、いつ来ても、変わらぬ味を提供し続けたい。そして、現状に満足することなく、さらに美味しい一杯を目指して、日々の改善を重ねていきたいと思います。
最後になりましたが、ご来店くださるお客様お一人お一人に心から感謝しています。これからも、一杯一杯に想いを込めて、より良いラーメンを提供できるよう、スタッフ一同、精進してまいります。